大阪地方裁判所 昭和56年(行ク)12号 決定 1981年4月24日
申立人
大阪入国管理局主任審査官
右指定代理人
坂本由喜子
被申立人
許慶男
右代理人
上原邦彦
主文
本件申立を却下する。
申立費用は申立人の負担とする。
理由
<前略>
第二当裁判所の判断
一当裁判所が昭和五三年二月二八日右当事者間の当庁昭和五三年(行ク)第七号退去強制令書執行停止決定申立事件について「被申立人(本件申立人)が申立人(本件被申立人)に対して発付した昭和五三年二月一日付退去強制令書に基づく執行は、その送還部分にかぎり、本案訴訟(当庁昭和五三年(行ウ)第三号事件の判決の確定に至るまでこれを停止する。」との決定(以下、本件決定という)をしたこと及び右本案訴訟につき昭和五六年二月二七日本件被申立人の請求を棄却する旨の判決が言渡されたことは当裁判所に顕著である。
二申立人は、右判決の言渡しにより行訴法二六条一項所定の「事情の変更」が生じたから、本件決定は取消されるべきであると主張する。
行政処分の執行停止は本案についての理由がないとみえるときにはすることができない(行訴法二五条三項)のであるから、一旦執行停止決定がなされても、本案訴訟において請求棄却の判決があつた場合において、それが取消されるおそれがないと考えられるときには、その確定をまつまでもなく、「事情の変更」が生じたものとして、さきにした執行停止決定を取消すことができることは申立人主張のとおりである。
三一件記録によると、本案訴訟における被申立人の主張は、被申立人は昭和二七年法律第一二六号該当者で出入国管理令の適用が排除されるから、被申立人が同令二四条四号リに該当するとした法務大臣の裁決及び申立人の被申立人に対する退去強制令書発付処分は違法であり、また法務大臣が被申立人に在留特別許可を与えなかつたことにつき平等原則や離散家族保護の配慮を欠く裁量権の逸脱ないし濫用の違法があり、これをうけてなされた申立人の被申立人に対する退去強制令書発付処分も違法であるから取消されるべきであるというにある。第一審では三年にわたる審理の結果被申立人の主張が容れられず請求棄却の判決がなされたが、被申立人はこれを不服として判旨昭和五六年三月一〇日控訴した。被申立人の主張内容や立証の経過等からみて、控訴審において第一審判決が取消される見込はかなり少ないと思料されるが、なお上訴審における被申立人の主張・立証のいかんによつては、第一審判決が取消される可能性も絶無とはいえず、更に本件決定が取消され、被申立人が退去を強制されて本邦を離れた場合、本案の訴訟遂行上回復できない事態を招く場合のあることを考慮すれば、本件決定についての事情変更の有無の判断は慎重を要し、現段階で第一審判決は取消されるおそれがないものとして本件決定を取消すことは、一件記録に徴して相当でないと認められる。
四よつて、本件申立は理由がないからこれを却下することとし、申立費用の負担につき行訴法七条、民訴法八九条を適用して、主文のとおり決定する。
(志水義文 宮岡章 西野佳樹)